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2008'05.05.Mon

中山さんのお願い

中山さんは歌がじょうず、大きなよく通る声で歌を歌う。
わたしは中山さんの歌を聴いて、ちょっとだけだけど歌を覚えた。
中山さんの歌はだいすき。
そんな中山さんは、夕方が近くなるとよく「おねがい」をする。
今日もわたし、中山さんに「おねがい」された。

「おねーさん!ねっおねがい!」
大きな元気な声で中山さんがわたしを見て言う。
「どうしたの〜中山さん」
「おねーさん、わたしね、うち帰りたいのっ」
中山さんも、おうちに帰りたいってよく言う。これが中山さんの「おねがい」。
「中山さんのおうちはどこなんですか?」
「○○区△△町!おねえさんはどこなの?」
これでちょっとは気がそれてくれるかな?他のお話ししてくれるかな?って思いながらわたしは自分のおうちを答えた。
「あんたなにいってんのっ!!!!!」
中山さん大爆発。こわあい顔して、おっきな声で怒鳴る。

わたしはまだ、中山さんがなにに対して怒っているのか、よくわからない。
よく学校で聞いた、「点の上でいきてる」ってことなのかなあ。
でもそれとはなんかちがうような気もするなあ。
もしかしたらわたしが、中山さんの欲しかった答えじゃないこと言ったのかなあ。

どうやったら中山さんは笑ってくれるかな。
今日は夕方からずうっと、そのことばっかり考えてます。

中山さんや飯田さんがおうちに帰りたい!って気持ちをストレートにこっちに伝えてくる。
何年ここで過ごしても、中山さんと飯田さんのおうちはここじゃなくて、今までずっとくらしてきたおうちが、家なんだなあ。
わたしの施設は、ユニットケアをやっていて、家庭的な雰囲気をーとみんな考えてる。
でも職員足りなくて、結局細かいところまで手が届かない。
みんなで昼間フロアで過ごして、夜だけ自分のお部屋でねる。まっしろなシーツ、まっしろなまくら、鉄の柵、茶色いタンス、みんなおなじ、みんなとおなじ。でもみんなはここではじめてあったひと、家族じゃないし、お友達ともちょっとちがう。ご近所さん?
ここは中山さんや飯田さんの「家」になれないのかなあ。
家族が帰ってくる場所が、家なんだよね、やっぱり。
わたしたちは家族になれない。家族みたいに毎日一緒にいても、家族とは違う。友達とも違う。
わたしたちは、中山さんにとって、誰なんだろう。誰になれるんだろう。

わたしはいっつも、「家に帰りたい」って訴えられたとき、どうすればいいのかわからなくなる。
「もうすこしでご飯できるの、あなたの分も用意しちゃったから、もったいないからそれは食べていってね、ごちそうするからね」
そのくらいしか言えない。
「いいよ、帰りましょう!」
っていうのは、無責任だとおもっちゃうから。
出来もしないのに、相手が認知症できっと忘れちゃうだろうからっていって、無責任なことは言いたくない。
そうもいってられないのかな?
いいよ、帰りましょうっていって、その人がそれで落ち着いて安心して過ごせるんなら、そっちのほうがいいのかな。
わたしにはまだよくわからない。
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2008'05.04.Sun

はじめての 転倒

笑顔がかわいい、孫がだいすき飯田さん。
夕方になると落ち着かないことがおおくて、椅子からよく立ち上がる。
付き添いで杖歩行はできるんだけど、ひとりで席を立って歩こうとする。
よく飯田さんは「お家にかえります」「帰ってい〜い?」って言うの。
入所してきて約2年、それでもやっぱり、飯田さんにとってここは家じゃないんだなあ。
飯田さんの席にはセンサーがついている。飯田さんが立ち上がると音が鳴る。ひとりで席を立って転倒する可能性があるから。

おやつが終わって一段落、今日も飯田さんのセンサーが鳴る。
「飯田さーん、どうしたの?」
わたしが聞くと、飯田さん、最初は
「なんでもないのよ」
って言ってたけど、何回も何回も立ち上がろうとする。
「どっか行きたいとこあるの?」
飯田さんが困った顔しながら、
「わたしおトイレいきたいのよ、つれてってください」
わたしと飯田さん、朝も一緒におトイレいった。だからまた行けるとおもって、先輩に
「飯田さんおトイレいってきます〜」
って言ってから、飯田さんの杖持って飯田さんの席にいく。
「飯田さん、杖右手で持ってね。一緒におトイレまで歩こう」
そう言うと飯田さんは立ち上がって、杖持った。わたしは左側で飯田さんを支える。
飯田さんと一緒に、いちに・いちに・ってゆっくり歩く。
トイレまであと1mくらいのところで、飯田さんが立ち止まる。
「飯田さん、トイレもう目の前だからね、わたしこっち支えてるから大丈夫よ」
「でももうだめなの、歩けないっ」
飯田さんは歩くのやめてしまった。
わたしは飯田さんを励まして、なんとか歩いてもらおうとしたけど、飯田さんの足は動かない。
先輩呼ぼうと思って周りをキョロキョロ、すると飯田さんが
「もうだめ〜〜〜!」
飯田さんの膝はゆっくりまがって、背中を支えるわたしの腕に体重がかかってくる。
体制立て直すのは出来なくて、腕で飯田さんを支えながらゆっくりゆっくりしゃがむ。
飯田さんは床に仰向けになった。
頭は打たないようにしなきゃっ!ってゆっくりゆっく〜〜〜り頭も降ろした。
「こわいこわいこわい〜〜〜っ」
泣きそうになる飯田さん、わたしも泣きそうだったけど、ここでわたしが泣いたってなんにもならない。
すぐに先輩がきてくれて、一緒に飯田さんを車椅子に移した。
飯田さん、BP検温異常なし、外傷なし、痛みは・・
「膝が痛いのよ〜!」
それでも席に戻ってからも、何度も立ち上がる様子あって、大けがにならなくてよかった・・。

先輩みんな、だいじょうぶだよ、大けがしてないんだし、失敗いかせばいいよってやさしくいってくれる。
休憩のとき、一緒に車椅子に移した先輩の顔をみて、安心してちょっと泣きそうになってたら、その先輩が
「大丈夫?りりちゃんもこわかったよね」
っていってくれて、泣いちゃった。
それでもみんな優しくて、もっともっと泣いちゃった。

そのあと、わたしが飯田さんのおトイレいってきますーって言った先輩が、わたしに「泣かせちゃってごめんね」って、一緒に泣いてくれた。
ごめんなさい、先輩はわるくないのに、こっちこそ泣かせちゃってごめんなさい。
人が少ないから、早くひとりでいろいろできるようにならなきゃ、がんばらなきゃって思って、ひとりで飯田さんおトイレつれていこうとしたわたしが悪いのに。
また泣いちゃった。

飯田さんはおやつの前にお風呂にはいってた。
だから疲れちゃってたんだね。
なのに歩いておトイレ、途中で限界きちゃったんだね。
疲れてるのに気づけなくてごめんね。

はじめての転倒、わたしもっともっと色んなこと考えてお仕事しなきゃいけないんだって改めて思った。
飯田さん、怖い思いさせちゃってごめんなさい。
先輩、泣かせちゃってごめんなさい。
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